
今日は授業で女性の年齢に関しての価値観について話をしました。
今日のパートナーはグリングリンの天然パーマネントがチャーミングなエスパニョーラ(スペイン人女性)、エリアちゃんです。
エリアちゃんはやたらと食い気味で話を急ぐ年齢不詳の推定処女、老け顔で勉強熱心で、努力家ゆえの暴走が、よくパートナーになる僕にとばっちりを喰らわしている、部下だったらほっとけないタイプのコです。
部下じゃないので最近は出来るだけ近づかないようにしてたのですが、ここんところ遅刻気味の僕が教室に入った時、
撲殺的なワキガが人々の思考能力を簡単に鈍らすトルコ人の隣と彼女の隣しか席が空いていなかったので、迷わず彼女の隣に座って授業の課題について話をしました。
「歳がだいぶ上の女性をどう思うか。またそれにまつわる経験談はあるか」
ちょうど昨日書いたとおり、僕は女性に対して骨まで、いや髄まで女であってほしいと願っているタイプの人間なので、女性は歳を重ねれば重ねるほど魅力が増していくものだと月並みに思っているわけですが、その価値観をエリアに話した後、今度はそれにまつわる経験談を話してあげました。
26歳の初夏のことでした。
ある女性との結婚のために当時勤めいていた派遣の仕事を辞めて正社員としての仕事を探していた時、知り合いの不動産屋の社長の紹介で、キャバクラの女性オーナーの下、営業職の肩書で新規のバーを責任者として立ち上げることになりました。(のっけから分かりづらい)
ちなみに結婚を考えていたその女性とは派遣の仕事を辞めてしばらくしてから別れました。
企画と営業だけでなく水商売自体が初心者の僕に何でこんな無謀なことを?とも思いましたが、それはオーナー自身も思っていたらしく
「キッチーさん、新規のバーが完全に立ち上がるまで、
誰か知り合いのバー経営者を探して毎日そこで少しずつカクテルの作り方なんか勉強をしてきてください。で、それが終わったらそのまま毎晩うちの店(キャバクラ)にきてボーイとして働いてください。」
という、突っ込みどころがたくさんある無茶ぶりをしてきました。
仕方が無いからかなり細めのツテでスナックの店長を探し出し、図々しくも開店前のそのスナックで一時間ほど店長からの教えをいただけることに成功したのですが、初日の「授業」が終わった後に店長が僕に宿題を出しました。
「キッチーくん、ここから歩いて一分くらいのところにこの街で一番おいしいカクテルを出すバーがあるんだけど、ここでの練習が終わった後、キャバクラに行く前に毎日そこに客として行って何かカクテルを頼みなさい。大人向けの店だから値は少々張るけど君にとってもいい投資になる」
言われた通り毎晩のようにそのバーに通うようになるわけですが、そこは10坪ほどの狭いスペースの店で、初老のちょっとオカマっぽい店長が一人でお酒を作っているお店でした。
世間知らずな僕は初日に自分の身分を明かし、しかし逆にその正直さをその店長に気に入ってもらい、毎晩そこでの時間を楽しむようになりました。
通い始めて一週間目くらいのことだったでしょうか。
僕はその店で千賀子さん(仮名)という名の60手前の女性と出会いました。
今でいうところのアラ還です。
狭い店内の半分のスペースを閉めているカウンターで、僕らはお互いから一番遠い端っこと端っこに座っていたのですが、その日何故かドレス姿だった千賀子さんを一目見て、僕は彼女の微笑んだ表情に美麗とか優雅とかいった人としての美しさを、そして女性としての美しさも感じました。
将来自分がこれくらいの年になった時、こんな女性を連れて歩けるような、こんな女性にふさわしい男になりたいなあ、などとも思っていました。
その日のノルマのカクテルをちびちび舐めながらそんなことを妄想していると、千賀子さんが僕をみとめて微笑みかけてくれました。
僕も合わせて会釈を返すと彼女が僕の隣の席に移動してきます。
そしてお互いの自己紹介をしたわけですが、そこで彼女の年齢と、二人の息子の年齢が僕よりも上であることと、現在旦那さんと別居中であるということを知りました。
要するに逆ナンであったわけですが、若いコのナンパの仕方と違い
「ケータイの番号教えて」
「アドレス教えて」
ではなく、千賀子さんはハンドバックから手帳を取り出すとページを一枚破り、そこに達筆な文字で自宅の電話番号と自宅の住所を書き込んで僕に渡しました。
「いつでも遊びにいらっしゃい」
と言って僕にも僕の携帯の番号と住所を書かせたわけですが、姿勢も振る舞いも言葉づかいも筆跡も美しい淑女の前で、僕の字はひどく汚く乱暴で、とても恥ずかしい気持ちになったことを覚えています。
それ以来よく千賀子さんから電話がかかるようになり、時間の空いていた日に徒歩一分の距離の彼女の家に一度訪れたのですが、公団住宅の一室を安くで買い上げて、その後自分の好きなように内装を変えたその部屋は、実家が裕福だった千賀子さんらしく小洒落たセンスで(と言ってもまず自分にそのセンスが無いのでよくわからないが)、品のある心地よい贅沢をしてるんだなあ、などと生意気にも思いました。
訪れた時間が昼過ぎだったのにも関わらず、酒を勧めた千賀子さんからもてなされた肴(さかな)は、手作りのものでした。
湯むきにしたトマトから種を全て取り除き、それを角切りにしたものをオリーブオイルと塩だけであえ、チコリに乗せて食べるという、何だかその調理法を千賀子さんから聞いただけで子どもの僕が舞い上がってしまうような、アバンギャルドな印象をくれる肴でした。
なんせこれから飲食店を経営するという26歳の僕はその時初めてチコリというものの存在を知ったくらいです。
以来、めったに見ないチコリをスーパーで見かけた時にこの日のことを思い出すようになったのは言うまでもありません。
その後充分に腹を満たして酒気帯びのままドライブをしたのですが、行った先が一つのレストランに二つのバーと、ハシゴするところはことごとく飲食店で、容赦なく料理を勧める千賀子さんに「もうお腹いっぱいです」と断るたびに
「それにしてもキッチーさんって小食ねえ」
と口癖のように千賀子さんに呟かれていました。
大人3人前以上は余裕で食ってたのに。
最後に寄ったのは全日空ホテルのバーで、窓際の席から見える成田空港内の夜のランプ(本来の専門用語から多少意味が変化して、空港職員の間では滑走路や誘導路や駐機場などの一般人が入れない外の敷地全体のことを指していた)が綺麗にイルミネイトされていて、そこから飛び立つジェット機たちを二人でロマンチックに眺めながらバーボンを飲んでいたのですが、僕は隣に座る「いい女」と想いがリンクしてしまったのか、数年前空港で働いていた時に出会ったあるプレイボーイの言葉を思い出していました。
回想の回想ですか。
彼はある航空会社の職員で当時の僕の倍以上の年齢だったのですが、その下請けの仕事をしていた僕をえらく気に入ってくれて、仕事中だというのにしょっちゅう僕をランプ内のドライブに連れて行ってくれました。
詳しい事情を聞いたことはありませんが、子どもをつくらず美人の奥さんと二人で暮らしている彼は浮気癖がひどく、新入社員の女のコに手を出してしまうなんてこともしばしばありました。
大した人生経験も女性経験もあるわけでなかった当時の僕はイキがりたい盛りで、大人の魅力と言うものをほとんど理解も尊敬もしていないくせに、彼の武勇伝をさもわかっているかのように自分の貧弱な経験と哲学に当てはめて頷いていたのを覚えています。
話の流れで20代前半と40代半ばの男が普通にセックス話などのボーイズトークをするわけですが、一度、女性を喜ばせるテクニックについて彼に教えを乞うたことがあります。
その時の彼の答えは
「キッチーちゃん。セックスは技術じゃないよ。大事なのは愛だよ」
というものでした。
「愛」とかいう言葉をまだまだこっ恥ずかしく感じる年齢だったのでてっきりそれがシュールな洒落の言い回しだと思って
「そうですよね。ムードとか大切ですよね」
と場違い的な知ったか発言をすると
「いや。ムードじゃないんだよ。愛なんだよ」
と真顔で返されました。
どういうリアクションが正解なのかわからなかったので「ああなるど、愛ですかあ」と曖昧に頷いておいたけど、間違いなく僕の幼さを見抜かれていただろうなあ。
逆に今は僕が若者たちにこれをしたり顔で語るようになったわけですが、やはりあの時の僕と同じように「ムード」という言葉で理解しようとする者には、彼等の経験人数に関わらず気持ちの上で「童貞め」と、憧れと嘲笑の間の気持ちで思ってしまいます。
とは言えこの感覚を理解できるようになるのはもうちょっと先の話で、再び千賀子さん宅に戻った僕は何度も「もう結構です」と断ったのにも関わらず出されたデザートを食べながら
「俺、この人とヤれるのか」
と、愛とかムードとか関係無しに純粋に、そして真剣に妄想してました。
親子以上に年が離れているとはいえ夜の密室に男女が二人きり。万が一誘われた場合どうしよう。この場合断ったらやっぱり失礼になるんだろうか。断らなかったとしても起つんだろうか。起たなかったらもっと失礼になるんじゃないか。
などととても26歳とは思えないようなキチガイじみたことを考えていましたが、もちろんそんな局面が訪れるわけはなく、淑女な千賀子さんは僕を玄関まで優しく見送ってくれました。
「また遊ぼうね」って。
かわいかった。
自分の中ではまあまあ美しい部類に入る思い出だと思ったので、プレイボーイとの会話を除いてこの話をエリアちゃんにしてあげたのですが、実はこれには続きがあります。
後に開店を間近に控えた僕のバーの厨房スタッフが事情により足りなくなり、僕は彼女のいくつかの条件を飲んで彼女にうちのスタッフとして働いてもらうことにしました。
これがいけなかった。
もともと老体の彼女には夜遅くまでの仕事は体にこたえるはずなのに、いつもみんなより早めに仕事を切り上げる彼女は、朝方までやっているうちのバーで客としてカウンターに座り続けました。
とにかく酒が強く、ウィスキーをロックでなくストレートで飲むのは当たり前のことで、普通はビビって一気にそのショットグラスを干し「ウガァァァーーー!!」とか「ヴぁぁーーー!!」とかの奇声を感嘆符とともにしか発せないはずのスピリタスをゆっくり味わいながら飲んで
「これ、おいしくない」としっかりと感想を言ったことも一度あったくらいです。
そんな、強いんだけども歳を考えない突き抜けた飲み方もするものだから、そのままカウンターで寝てしまってまだ働いている僕らに迷惑をかけたりするなんてことはしょっちゅうだったのですが、そんなことよりも酔っ払うと必ず口走る口癖が彼女にはありました。
「
今私、セックスフレンド探しているんだけどキッチーさん、誰かいい人紹介してくれない?」
彼女に対する憧れとか愛おしさみたいな想いはすっ飛びました。
「キッチーさん、私とどう?」
と微笑みながらたたみ掛けることもしばしばだったので、その時は
「いいから早く帰れよババア」
と微笑み返しで不躾に毒づいてあげました。
あーあ。
僕のいい思い出には必ずつまらないオマケがつくのは何故だろう。
しょうがない。きっとこれも僕の人徳ってやつだろうと受け入れます。
(人徳の使い方おかしい)