2010年3月6日土曜日

長い長い野暮な夜が


今夜もいつものように週末パブに行ってきました。
どのクラスもここのところ生徒が増えてパブ内でのうちの学校の生徒率が高くなっているのですが、ラウラのクラスメイトの一人、サンドラが誰に紹介されるわけでもなく僕らの輪に入ってきました。
女のコにしては珍しい。

ちなみにサンドラはスタイルはいいんだけど、顔は美人とまではいかない。
可愛いっちゃあ可愛いんだけど、どこかバタ臭い。
金髪に染めた髪の毛がケバケバしさを更に引き立てている。
まあ、早い話がヤンキーです。

この手の女のコはある意味僕のどストライクです。
と言っても僕の好きなタイプという意味でのどストライクではなく、この手のタイプとはかなりの確率で一悶着がある、という意味でのどストライクです。

見てくれだけでなく人目を気にしない積極さにも充分なアバズレ感を感じたけど、それがいい意味でなのか悪い意味でなのかはまだ見極めができていません。

なんてことを考えていたら今日の授業を最後に帰国するというあみちゃんがパブにやってきました。
クラスメイトと一緒じゃないところを見るとどうやら送別会は開かれなかったみたいですが、いずれにしろラウールとの別れを惜しみたい彼女は彼にプレゼントする小説を片手に僕らのエリアに入ってきました。

とは言えサンドラのように、親しくもない男と堂々と話せるわけではないあみちゃんは、迷わずにまず僕を捕まえます。
ちなみに彼女が僕に話しかける時は決まって日本語なので、僕らの会話が始まるとクラスメイトの女のコたちは見事に遠慮して僕らから離れていきます。

せっかく今サンドラとふしだらな匂いを醸し出していたところなのに、とも思ったけど、これも今日で最後だと思い直し、いつも以上に甘やかしてあげました。

これが誤算でした。

時間が過ぎ、一つのテーブルに僕とブルーノとラウールとあみちゃんという全員事情を知っている同士の絶好のポジションを取ることが出来たのですが、せっかくのお膳立てを上手いことオーガナイズしてあげても、こういう時だけ都合よく(悪く?)おしとやかな女子になる自称Sのあみちゃんは全てのナイスパスを空振りしていました。

さらに時間が過ぎ、ラウールがホセとルーサに呼ばれて、ちょいちょい僕らも二次会的に利用しているピカデリーサーカスの『オニール』というクラブに行くと言い出したので、まだプレゼントを渡せていないあみちゃんのために僕とブルーノも一緒について行くことを申し出ました。

オニールに着くとあみちゃんがトイレに行きたいと言い出したのですが、エントランスは列を作っていて中に入れるまでに少し時間がかかりそうだったので、ラウールとブルーノに並ばせたまま少し離れたカフェに二人でトイレを借りに行きました。

用を済ませて戻ってくると店の前にはブルーノが一人で佇んでいます。
どうやら普段、無料で入れることの多いそのクラブが、今夜はエントランスフィーに8ポンドほどが必要だということで、倹約家のブルーノは中に入ることを諦めてラウールを見送ったみたいです。

ここまで付き合ってくれたブルーノに申し訳ないと思い、僕もそれに倣おうとすると、当然のごとくあみちゃんが駄々をこねました。

「何でー。いいじゃん。一緒にみんなで中に入ろうよ」
「だからブルーノは節約しなくちゃいけないから、ここで金を使えないんだよ」
「じゃあキッチーさんだけ一緒に行こうよ」
「…おまえ、今すごいこと言ってるぞ」

日本人以上に気ぃ使いのブルーノが日本語でのそのやり取りを察して
「いいよ。俺のことはホントに気にしないでいいから二人で入ってきなよ」
といじらしいことを言いだすもんだから、僕の気持ちもますます逆に意固地になっていきます。

「考えてみりゃどっちにしろここから先は一人で頑張るところだろ。一人で中に入ってプレゼント渡して一緒に踊ってこいよ」
「嫌だよ。ラウ以外知らない人ばっかりだもん。一緒に来てよ」
 
こんな止め処ない会話がエントランスの前で15分ほど繰り返され、最終的にはあみちゃんが一人で入ることになり、ただし5分だけ僕らは外で待っててあげるから居づらかったら戻ってこい、ということで彼女を見送りました。

で、結局3分後には浮かない顔のあみちゃんが戻ってきました。

「・・・なんかあっけなかった」

その後バスで帰宅するブルーノと別れ、駅に二人で向かう途中に通りがかった日本食カフェであみちゃんの愚痴を聞いてやることにしました。

「だってね、わざわざ8ポンドも払って中に入ってね、プレゼント渡したら、ハグして『ありがとう』だけで終わりなんだよ。ラウ、薄情じゃない?」
全然。
「せめて表まで見送りに来てくれるとかさあ。そういうのがあってもいいと思わない?」
別に。
「だいたい何でキッチーさん、一緒に来てくれなかったの?ひどくない?」
おっと、八つ当たり。

ことごとく別れ方の下手くそな民族の代表のような発言が出てきたので、色々な国での別れにまつわる価値観や流儀というものを体験談を元に話してあげたのですが、一向に効果は無く、終いには泣き始めました。
ひでえ。

穏やかに話しかける男とシクシク泣いている女。
引きで観たら間違いなく、僕が別れ話を持ち出して恋人を泣かせているように映ったことでしょう。

「泣くくらいならもう一回会いに行ってこい」
ということであみちゃんの手に押されたスタンプがまだ消えていないことを確かめて、僕らはオニールに戻りました。

結局店の前まで来たら予想していたとおり駄々をこね始め、僕も一緒に中に入るように彼女がお願いしてきたわけですが、みんなから「イエスマン」呼ばわりされている僕もさすがにそんな大野暮はしたくないので意固地に断り続けて、とにかくもう埒が明かない。

人ごみ溢れる通りで「おーねーがーいー」を連呼しながら彼女がまた涙を浮かべ始めたので、恐怖を感じた僕は
「一人で行ける勇気が出るおまじないをしてあげる」
と言って、C級青春ドラマさながらに彼女に目をつぶらせました。
そして今までの積み重なった彼女への思いのたけを一生懸命込めて、厚い厚いデコピンをかましてあげました。

「いぃったぁーーーぃ!! 超痛ーーーい!!」

思ってたよりもいい重力で僕の中指が彼女の額に食い込み、あみちゃんが涙目のまま今度はわめき出しました。
事態は悪くなる一方です。

結局おまじないは効かなかったみたいで、エロ課長が新人の女性社員をラブホテルに無理矢理連れ込もうとするような体(てい)で、彼女が僕の腕を引っ張り始めたので、10年に一度の大後悔を覚悟して一緒に中に入ってあげました。

あーあ、このダメな意味でのキャンパスライフ的なノリ、僕と趣味の合うラウールはきっと嫌いだろうな。
しかも中に入ったら入ったであみちゃん、せっかく付き合ってやったというのにラウールとまともに喋ってねえし。

やや親日家とは言え、この日本人の子どもの心の機微をラウールは理解してくれたでしょうか。
まあ僕まで見くびられたことは間違いないでしょうが、酒のせいということにしてくんねえかな。

いずれにしても嫌な顔の一つもせずにきちんと対応してくれたラウールには感謝です。
来週も普通に学校生活が送れますように。

0 件のコメント:

コメントを投稿