2010年3月21日日曜日

愛しのラティーナ


ここのところ引っ越し先の検索に忙しく、今日は中途半端な時間にフラットの下見を二件入れました。
この引っ越しを機会に英語環境にどっぷり浸かろうかと思い、ここのところ英語のサイトを調べたり日本人向けのサイトなんだけど英語表記の物件を当たってみたりとちょいちょい面倒なことをしています。

今日の一件目は午前中に訪れた閑静な住宅街。
大家さんはインド系っぽい割にはクリアな英語を喋る親切な方で、感じは良かったんだけど駅からの遠さと部屋の狭さと日本人の多さがちょっと難でひとまず保留。
とりあえず次の下見まで時間があったので適当にやり過ごしました。

そして問題の二件目。

普通、フラット情報の掲示板のコメント欄には日本語、英語問わず、多くの人に興味を持たせるため、当然のことながら色々なうたい文句や写真がところせましと陳列されるわけですが、このオーナーの出したコメントは

Very centrally located room.
Safe, convenient.
(超ロンドン中心街の部屋。安全、便利)

これだけ。

問い合わせ先もメールアドレスは無く、携帯番号一本。
挙句にはオーナーの名前の記載が無い。

あら、しかもこんな都心部の割にはこんな安い値段、あやしい香りが充満してるな。
なんてなかば怖いもの見たさでわくわくしながらテクスト(ショートメール?みたいなやつ)を送ったのが昨日。
今日の朝、差出人不明で「リージェンシー カフェの前で3時から5時」とだけのメールが送られてきました。

色々な大家にフラットの下見希望のメールやらテクストやらを送っていたので、最低限名前を書いてくれないとどの物件のことだかわからない。
とりあえず自分が閲覧したネットの掲示板を一つひとつ調べ直して、送信元の携帯番号から相手を割り出すことに成功しました。

グーグルマップでリージェンシー カフェの場所をがんばって探し出し、4時にうかがう旨をテクストしたところ
「OK。着いたら電話くれ」
との返事。

なんと愛想の無い。

そう言えば、フラットに下見に行く日本人が詐欺やら何やらの危険な目に遭っているから、一人で見に行くのは絶対避けましょう、なんて張り紙とかフレーズを日本人向けの施設や雑誌でよく見たなあ、なんて思いながら、いざという時のために気持ちをもうちょっと高ぶらせようとipodの選曲もジェットの Are you gonna be my girl に切り替えです。

そして、道に迷いながら、人に訊きながら、ようやくそのカフェに着きました。
着いたので電話を入れると、意外にも受話器の向こうの声は女性のものでした。

クリアな英語だったにも関わらず、何を言っているのか今いち聞き取れない僕のために
「今、テクストを送るからちょっと待ってて」
と言ってその女性は電話を切りました。

てっきりここで待ち合わせて部屋に移動するのかと思ったら、テクストでここから部屋までの行き方を指示するらしい。
ますますあやしい。
女を使って安心させたつもりだろうが、そんな簡単にだまされるほど俺は馬鹿じゃない。

そう思い、休業日の薄暗い店内のおかげで鏡代わりにはちょうどいいカフェのガラスを前に、僕はウォーミングアップを始めました。
そうです。シャドーボクシングです。

まず右のロングがちゃんと伸びていることを確認して、そこから左のボディー。
ボディーアッパーはみぞおちを狙うのではなくあえて左に少しずらして、あばらを下から突き上げる感じ。
そのまま左でチンを突き上げて・・・いや、ちょっと待てよ。相手が大男だったらもうちょっと高く突き上げないと・・・なんて鏡(ガラス)で確認しながらフルに動いて、挙句には汗ばんできて上着まで脱ぎだす始末。

人通りは少ない方でしたが、それでもたまに行き交う数人の歩行者が気の毒そうにこちらを眺めていたのは鏡越しにも伝わってきました。

そんな感じでちょうど一ラウンドが終わったころに、先ほどの女性からテクストが送られてきました。
表記によればここから一分もかからない感じ。

よし、いざ悪者退治。
ただの下見→万が一の場合→なぜか正義感、と趣旨を大幅に捻じ曲げて、ヤクザ映画を観終わったばかりの中学生のような足取りで指示された場所へ向かいました。

結果、ただのおばちゃんでした。

まあ当たり前なんだけどさ。

部屋自体はまあ、可も不可もなくという感じだったんだけど、場所とか家賃とか勉強の環境とかを色々考慮した結果、昨日下見に行ったところの一つにイギリス人だらけのフラットがあって、そこにしようと思いました。

ところで今夜はジュリアーナの誕生日パーティーなわけですが、サンドラを誘うのを見事に忘れた僕は、下見先から(スッポカシ率100%の)ラウラとの待ち合わせ場所に向かいました。
予定の時間より早く着いたので、その時間を利用して希望のフラットのイギリス人にテクストを打ち込みます。

ただでさえ英文を書くのが苦手だというのに、光熱費やら税金やらのことを細かく、それも失礼の無いように丁寧な言い回しで尋ねるのはなかなかのストレスで、わずか4、5文の内容を打ち込むのに実に30分以上の時間を要しました。

そして何度も何度もその文章を確認した後に、真心込めて送信。

わずか1分後、「ごめん。他の人にもう決まっちゃった」と返信されてきました。

「っ!…アバズレめっっ!!今日までに返事すればいいって言ったろ!!」
という情熱的な想いは胸にしまいこんで、かわいいかわいいラウラちゃんを待つことそこから一時間。
僕が待ち合わせ場所に一時間半も早く着いたわけではなく、ラウラがきっちり一時間遅刻したということです。
来ただけその奇跡を喜ぶことにしよう。

ジュリアーナに教えてもらったバス停まで、そこから二人で向かったのですが、バス停に着いたら着いたで、指示された通りジュリアーナに電話しても、見事に誰も出ません。
ラテン人のパーティーにラテン人と一緒に向かうことの無謀さを改めて思い知りました。

結局は、そのバス停まで別の人間を迎えに来たスクールメイトに会うことが出来て、彼にフラットまで案内してもらったのですが、相変わらずラリパッパ(絶語)に踊り狂うブラジル人たちを尻目にシャイなラウラと僕はソファーに腰かけてまったりとやり過ごしました。

そこで自然な流れで恋ばなが展開されたわけで、すでに決着がついて全員飽ききったと思っていた話題、「キッチーはサンドラのことが好きなんでしょ」を丁寧に弁解して、好みの女性のタイプやら何やらを色々聞かれたので、そっちは不丁寧に返してあげました。

酔いのせいか、髪をほどいて僕にしなだれかかるラウラが、最近ダイエットに成功していることも手伝って妙に色っぽく、なんだか今夜の二人はいいムードです。

となると、オチに「けっきょく僕の思いちがいでした。あはは」と涙がちょちょ切れそうな笑いが待ち受けているのがいつものお約束なのですが、今夜のオチはもう少し鈍痛を伴うものでした。

「そういうおまえはどんな男がタイプなの?」
とスケベ面で尋ねる僕に対して
「国籍も年齢も気にしない。中身が素敵な人がいい」
としなをつくりながら艶っぽく彼女は答えます。

俺の中身の悲惨さがばれている形跡は無いから、これは俺のことを言ってるんだよな。可愛いヤツめ。
などといつもの手順でいい気になってたら、ラウラが続けました。

「でも私がカトリックだから相手もカトリックがいい」

うほほーい。
彼女の肩を抱く左手が見事に緩みました。

誰も悪くないし「ふられた」という落ち込みを抱くほどの感情はぶっちゃけ彼女に対して持ってなかったんだけど、何だろうこの感情。
人種差別と似てるようでだいぶ違う、もっと柔らかなんだけど分かりづらい仲間はずれの感覚。

もっともっとガっついてた若い時分は、たらふく嘘をついてきたというのに、なぜかその頃からも自分が無宗教だということに関しては嘘をつくことができず、不可侵だったような気がします。
僕のようなケチな男でも人様の信仰心や念の強さにはある程度の敬意を払っているということなのでしょうか。

なんだかすっかり甘酸っぱくなってしまった帰り道、どんないきさつだったかラウラと手を繋ぎながら帰りました。

無いものねだりなのか、昨日よりラウラに興味を持っています。

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