昨日、パブでロスィオ夫妻からバッキンガム宮殿に一緒に行かないかとの誘いを受けたので、また一人だけ場違い感に包まれるのが嫌だった僕はジャミーリにディアナパオラにラウラも誘いました。
10時半にハイドパークコーナー駅で、という待ち合わせをして時間どおり律儀にそこへ向かったわけですが予想どおり誰も来てません。
仕方が無いので駅の売店でケバブとカプチーノを買って、駅前の公園のベンチに腰をかけて待つことにしました。
天気も気温もここ数週間で一番というくらいによく、人影まばらな休日午前の公園はすこぶる爽やかで、待ちぼうけを喰らっているにも関わらず、僕は誘ってくれたロスィオに感謝をします。
空は青く、日差しは正面鋭角で、しかし大木の枝々に程よく遮られて、透明感の強い空気を観光客やジョガーたちが次々と体に浴びていきます。
あのカップルはどこの国の人かな。
そこのジョガーグループはどういう繋がりなのかな。
あそこのワンちゃんは何て名前かな。
などと健やかな思考の浮遊に浸ろうかとも思ったけど、ipodの長渕が
ぅおうおうとぉーっっっっ 負け犬が吠えてぇるっ!!
と、がなるものだからさっき売店で買ったやたらと薄いカプチーノの不味さも9割増しになります。
爽やかな朝と言えば10年以上も前の夏の初め、仕事もなく『前科』と二人で暮らしていたころ、千葉駅の周辺で夜を明かしたなんてこともありました。
当時はホストの体験入店をしに行ったり在日朝鮮人の工場で一日だけ働いたりする以外は、職安で酒を飲みながらダメ人間丸出しをかましていたころです。
都内に何かの面接で前科と二人で行った帰りだったと思うのですが、前科がスーツ姿に何故かハンチング帽を被り、足元にはワークブーツで、極めつけは太って全開に閉まらなくなったズボンのチャックを隠すために、シャツを裾から出して
「これが今流行ってんだよ」
とほざいたのを覚えています。
これに比べれば今話題のスノーボーダーなんて乙女に見えるってもんです。
前科の下痢が原因で遅刻した僕らは見事に一次面接で落ち、帰りに『菊次郎の夏』をさびれた映画館で二度も観る(昔ながらの映画館は今のように完全指定入れ替え制ではないのでこういうことが出来た)という余裕をかましていたら成田行きの終電を逃してしまい、仕方なしに千葉駅で降りました。
県庁所在地とは言え平日深夜の千葉駅周辺は人影もまばらで、僕らはほぼ誰も足を止めていない二人組のストリートシンガーの前に座り、賑やかしてあげました。
そんなに好きじゃなかったけど彼等のレパートリーの尾崎豊に拍手を送り、仲が良くなった僕らは彼らに缶ビールを奢ってやります。
無職のくせにこういうところは無駄に粋。
どうせ他にオーディエンスもいないのでギターを置かせて僕らは4人で雑談を始めました。
彼らが僕らと大して歳が変わらないことや「一応これでもプロ目指してます」ってことや、それぞれの置かれてる状況を自己紹介がてらに話したり聞いたりしてた時に、彼らの一人が面接帰りのスーツ姿の僕を見て
「スーツ、似合いますね」
と言ってきました。
その言葉に他意は無かったのでしょうが、ペルーから帰国して間もないその時期に、中途半端に着地してるんだかしてないんだかな僕に、その言葉は複雑に心に絡みました。
しばらくして彼らと別れを告げ、適当に繁華街をうろついてから、疲れた僕は路上で眠りに着きました。
仰向けに見上げた星空が綺麗だったかどうかは覚えていません。
遊び足りない前科はそんな僕を一人置き去りにして寂しく夜の街へ埋もれていきました。
翌朝、消防車のサイレンにたたき起こされて見上げた初夏の空は、今日と同じように青く澄んでいました。
その朝を爽やかに感じた理由が、前日見た映画の影響でもなく、前夜言葉を交わした若者のエネルギーに触発されたからということでもなく、ただ単に夏だったからということを今は知っています。
起きてしばらくしてから、当時携帯電話を持っていなかった僕は公衆電話から前科の携帯に電話をかけました。
駅前で合流したあと前科が
「今朝、消防車のサイレン聞いた?」
と聞いてきたので「聞いた」と答えると、どうやら前科は火事の現場に野次馬に行っていたとのこと。
「そん時に仕事明けの水商売のタイ人をナンパして、番号交換してさあ」
とTPOを一切わきまえない行為の結果に嬉しそうにはしゃいで、携帯の番号を手に入れただけだと言うのにこれ以上ない脂っこい笑顔を見せるもんだから、爽やかな朝は夏の彼方に吹っ飛びました。
「よし、じゃあ彼女が眠りに着く前に早く今のうちに電話しろ!」
とこちらもノリにのって2対2の合コンを期待して急かすと、携帯番号が10桁から11桁に移り行くその当時に、書かれていたメモ書きの文字はバッチリ9ケタ。
てっきり「他人の番号だった」とか「お店の番号だった」とかのオチが待っているのかと思ったら、一捻りだけされていました。
そんなことを思い出していると時刻はすでに11時。
ジャミーリ達は読めてたからいいとしてロスィオ夫妻まで来ないのはどういうことだ。
仕方なしに「今どこ?」とメールだけ打って一人でバッキンガム宮殿まで歩きます。
何のイベントがあるのかわからないまま、以前来た時と同じように一通り眺めた後に一人帰路に就こうとした帰り際、兵隊さん(?)が動いているところを初めて目撃しました。
対になって向かい合っている二人一組の兵隊さんの片方が指でサインを送り、それにお互いが合わせるように足を上げたり銃を傾けたり、まるでマスゲームのようでした。
極めつけはその表情。
普通一般に見られる兵隊さんは体を全く動かさないどころか何をされても無表情を貫くものですが、この時見たサインを送っていた太っちょの方は微妙に顔がニヤケていました。
仕事の出来ないヤツめ。
ただしおまえとは友達になれそう。
今日見た一番の嬉しい風景でした。
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