2010年2月7日日曜日

常磐青春残酷物語


インターネットを見ているとそろそろバレンタインデーであることに気づかされます。

バレンタインに関してはいい思い出があるはずもなく、よく思い出すのはペルーでビートルズに拷問を受けた時と、もう一つ、高校2年の時の思い出です。

当時「かつら」と「おじ」という呼び名の幼馴染(二人とも優等生気質)と一緒に電車通学をしていたのですが、同じ電車に見てくれの残念さ加減で名高い女子高の生徒たちも一緒に乗っていました。
その残念集団の中でも平均よりもちょっと上(この場合の「ちょっと上」は平均よりも「さらにちょっと残念」の意味)の女のコ二人組に僕らは軽いストーカーまがいのことをされていて、今なら選り好みすること無くそれを喜んで受け止めてあげられますが、「ストーカー」という言葉がまだ無かったこの当時の僕は思春期バリバリで、ひたすら不機嫌な顔を表現してあげていました。

そしてバレンタインデーが近づいたある日、そのコたちが下校中の「おじ」が一人でいるところを狙って接触を試みます。
どうやら彼女たちの一人が「かつら」を狙っていて、もう一人のボス格の方の残念スキルがやや上の方が僕を狙っているみたい。
そしてたぶん中学時代の僕の同級生で彼女と同じ高校に通っている誰かから全て調べ上げていたんでしょう、僕の名前をすでに知っていて、
「ねえ、キッチーくんって彼女いるの?」
と尋ねてきたそうです。
いなかったので「おじ」は素直に「いないよ」と答えたみたいですが、それを翌日の通学中に「おじ」から聞かされて、当時から少しジャイアンだった僕は激怒しました。

「何でそこで『いる』って答えないんだよ!あのブスにとどめを刺すチャンスじゃねえかよ!お前、実は相当の馬鹿か。いいか、『かつら』もよく聞いとけよ。今後、あのブス達がこっちに接触を試みたらおまえらが出来る最大限の努力をして近づかないように、て言うかもう、俺のことが嫌いになるように仕向けろよ」

今、字面に起こして読み返してみても自分がかなりひどい人間だったことがわかりますが、実際にはもっとひどいことを威張り散らしていたと記憶しています。

そしてバレンタインデー当日は確か日曜日で、僕は風邪をひいて部屋で寝込んでいたのですが、体調も大分回復した夕方にリビングに降りてみると母親が
「さっき『かつら』くんから電話があったわよ。風邪ひいて寝ているって答えといたけど」
と僕に言いました。

なんだろうと思いながらまたもや眠りにつき、翌日すっかり回復した僕は登校中の「かつら」に前日の話を聞かされることになります。

前日、2月14日、昼ごろに「かつら」んちのドアベルを鳴らす音がしました。
すっかり覚悟を決め込んでいて、それでいて優しい「かつら」は予想通り玄関先に立っていた二人の残念にきちんと対応してあげました。
一先ずは自分の担当(ノルマ)の方のチョコレートを受け取ると、ボス格の方から
「今からキッチーくんちに行くんだけど、キッチーくんって今家にいるかなあ」
との恐ろしくも当然の成り行きである質問が。

先日さんざん僕に説教されていたので、真面目で優しい「かつら」は「じゃあ電話かけて確かめてきてあげるよ」と一旦部屋の奥に引っ込みます。
ですが実際は電話をかけたわけではなく頃合いを見計らって再び玄関先に戻り
「今、キッチー出かけてるって。だから俺が預かっておいてあげるよ」
と嘘をつきました。

ただし奥に引っ込んでいた時間が短すぎたのかその嘘はすぐにばれて
「いなくてもいい!今からキッチーくんちに行く!」
と彼女を怒らせてしまったみたいです。
慌てた「かつら」は「ごめんごめん。今度はホントにかけるから頼むからちょっと待ってて!」とお願いをし、そして電話の向こうの僕の母から寝込んでいることを聞かされたというわけです。

それを一通り彼女たちに説明をして
「頼むから俺に預からせてくれ。じゃないと俺がひどい目に遭う」
という身も蓋も無いことを言って懇願したみたいです。

本来ならこの話を聞いて、素直に感謝するところなのでしょうが
「で、今かばんの中にそのチョコレートが入ってるんだけどさあ・・・」
と「かつら」が続けたものだから
「っざけんな!何でそんなもの受け取ったんだよ。そんなものふんだくって用水路に捨てればよかっただろ!(「かつら」んちの前は用水路が流れている)」
と更に餓鬼のような恐ろしい追い打ちをたたみかけて優しい優しい大人な「かつら」を困らせました。

「わかったよ。じゃあ捨てとくよ」
「いや、やっぱり駄目だ。捨てるのは失礼だ。せっかく作ってくれたんだからお前が責任もって食え」
「何わけのわかんないこと言ってるんだよ。それならキッチーが食えよ」
「っざけんな!」
「じゃあ捨てるよ。それでいいだろ」
「いや、食べ物を捨てるのはやっぱりよくないし、この場合どう考えてもお前が責任もって食うのが筋ってもんだ」
と、どう考えても気が狂ってるとしか思えないことを毒づいて「かつら」をことさら困らせましたが、この発言の理由にはどSの快楽のためというものは9割くらいしかなく、残りの1割は実際にこういった矛盾を自分の中に抱えていて、当時の僕はなかなかの困ったチャンだったからということです。
鶏を食べることは出来ても殺すことが出来ない、っていう感覚と似たようなものかな。違うか。

こんなやり取りをぼんやりと聞いていた「おじ」が一言
「おまえらはまだいい方だよ」と。

え、あんなブスにチョコを貰うことが羨ましいの?と尋ねると
「いや、俺、中学時代に大熊(仮名)にチョコレートもらったことがあってさあ」
と昔話を披露してくれました。

どの学校にも〇〇四天王みたいなものがいると思うのですが、大熊というこのコは我が中学が誇る、三人しかいないのに何故かそう呼ばれているブス四天王の番格で、当然のことながら「大熊菌」なるものも小学校時代には発生してました。
(注釈・僕が育った地域は一つの小学校から一つの中学校に上がって、転入生でも来ない限り9年間ほぼメンツが変わらないというちょっと変わった所)

そのコに中3の時に家まで来られてチョコレートをもらったみたいです。
タイプとしては「おじ」も「かつら」と同じく優しくて大人な子だったのでその場ではきちんと受け取ったのですが、どうしても四天王の、しかも番格の手造りチョコを食べることが出来なかった彼は、それを庭先から隣の家の犬にあげてしまいます。

隣の夫婦は子宝に恵まれなかったらしく、その犬を大層かわいがっていたみたいなのですが(じゃあ室内で飼えよとも思ったが)、「おじ」があげたチョコレートを食べた翌日、死んでしまいました。

「でも元々弱ってたんだよその犬!たまたまそのタイミングだっただけだよきっと!」
と話の終わりに「おじ」が頑張って弁解をしてたけど、こんな面白い話にそんな言い訳を僕が許すはずがありません。

とりあえず
「俺よりもお前の方が悪人だな」
ということで話を片付けて、僕は「かつら」に「いろいろとありがとうな」とお礼を言いました。

僕がちょっとだけ大人になった日の出来事です。

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