わずか10ポンドでスパイクを買うという丸出しの貧乏性がたたり、昨日、靴づれの範疇を悠に超えるくらいザックリ皮膚が剥け、その痛みで今日のトレーニングは開始わずか5分でリタイア。写真はそのホームグランド。
塗り薬を買おうと、薬局の場所と靴づれの英語訳をコーチに聞いてから、財布を取りに一旦フラット(アパート)まで戻りました。
道中、右膝もまあまあ腫れているのに気付くという要らないオマケまで。
あんちきしょうにふっ飛ばされた時かな、こんちきしょうに踏まれた時かな、などと腫れの原因を探りながら、チームメイトのフィジカルの強さを回想していると、ついつい行き過ぎて
「いや、ブラジルの時のチームメイトの方が強かったぜ」
などとやはりついつい、もう会わなくなった者たちの方を過大評価してしまいます。
ところで、かなりの偏見と親しみを込めて言わせてもらえば、ブラジル人の約9割が男女ともにスケベ大好きっコなんですが、ブラジル時代、最も仲が良かったチームメイトの一人にデッカォンという愛すべきスケコマシがいました。
彼はドナルドダック似の愛くるしい目をしたブロンズヘアの白人で、女受けが非常によく、ルースィアというこれまた非常に可愛らしい恋人がいました。
ただ残念なことにルースィアは愛すべきアバズレではありません。
いつもデッカォンの後ろに隠れてはにかんでいるような、まるで人見知りの日本人のようにか弱い女の子です。歳も大分若く、デッカォンが言うには、彼女にとってはデッカォンが初めての男だったらしく、デッカォンしか目に入らないくらい一途なコでした。
そんな典型的なブラジレイロ(ブラジル人男性)と例外的なブラジレイラ(ブラジル人女性)の組み合わせを町中が暖かく見守っていました。
「町中」と言ったのは大袈裟ではなく、実際小さな町だったので「誰が誰と親戚関係にある」とか「誰が誰と付き合っている」といったことから、ぼくのことまで「いつ頃、どこからこの町に来たか」なんてことをみんなが知っていました。
そんな小さな集落のような町の人から見守られていた小さな恋も、終わりは突然にやってきます。
いや、あのときの二人の別れを「突然」と思ったのはおそらくルースィア一人で、デッカォンの女ったらし加減を思えば、だれもが「必然」と思ったことでしょう。
別れの理由は「必然的」にデッカォンの移り気です。
まあよくある話だな、と町中がいつものように無責任に飽き始めたのですが、この話には微笑ましい続きがありました。
デッカォンに振られてから2日と経たないうちに、ルースィアは煙草を始め、更にはノーヘルで50ccのカブにまたがるようになり、町中の彼女に対する代名詞は「はにかみ屋」から、「カブをぶっ飛ばす女」に変わりました。
そんなことを知ってか知らずか、ノーテンキなデッカォンは新しい女のケツをガッツリ追いかけています。
その日も、午後のトレーニングが終わってから、デッカォンは新しい女とデートをしていました。
きっとバッチリ決め込みたかったのでしょう、練習終りのシャワーの時、ぼくらチームメイトに夕方のデートの予定をはしゃぎながら自慢していたのをよく覚えています。
そしてぼくを含めた暇なチームメイト数人は、デッカォンの快諾の元、彼の新しいターゲットを見るために彼らのデートを見物しに行くことにしました。
歩き慣れた表通りを少し離れたところで、エロづらのデッカォンが大して可愛くない女の手を握りながら歩いています。だらしなく。ただひたすらだらしなく。
と、そのとき、ここ4、5日ですっかり聞き慣れたエンジン音が聞こえてきました。
そうです。カブをぶっ飛ばす女、ルースィアの登場です。
歩道を歩くデッカォンたち二人を正面から見たルースィアは、彼らとすれ違うと同時にカブの速度をゆるめました。
あとからデッカォン本人から聞いたのですが、このとき彼も視界にルースィアを認め、握っていた女の手をほぼ本能的に離したそうです。
しかし、ルースィア、そんなことはお構いなしにカブをUターンさせると、狙いをデッカォンに定めてエンジンをふかし出しました。
ブルン、ブルルン、ブルルルルルーン!!
そして発進!
ブルーンブーーーンブーーーーーーーーーーーーーン!キキキーーーーーーーー!!!!
ガーーーン!!!!
(解説すると、そこそこアクセルを加速させてデッカォンに突っ込んで、一応直前でブレーキはかけたんだけど楽勝で間に合わず、デッカォンの右太ももからケツにかけてぶつかった擬音語と擬態語。)
一応はとっさに身構えたデッカォンですが、それでもやはりもんどりうって倒れました。
一方のルースィアはカブを投げ倒すように降り捨て、あまりの驚きに固まってしまった連れの女に掴みかかります。
怒りか悲しみか、ルースィアが涙を流しながら拳をあげたところで、必死の生還を果たしたデッカォンが連れの女をかばおうとしましたが、その時うまい具合にルースィアの拳を顔面にもらってました。
てんやわんやの中、どうにかルースィアをなだめようとするデッカォンと、ますますヒートアップするルースィア。
たぶん別れの理由をデッカォンが嘘ついてたんでしょうね、
「何なのよ、この女!!誰なのよ!!!!」
とルースィアが激高すると、デッカォンは殴られた口元を押さえながら、ひ弱な声で一言、
「いとこだよ」
と、下手すりゃそこら辺の野良犬にさえも0秒で見抜かれる嘘をぬかしました。
ルースィア、超大泣き。
逢う魔が時の表通りで、西日にさらされた火事場の馬鹿力を見ながら
「国は違っても男ってやつは一緒だな」
とマヌケ面のデッカォンが微笑ましくなりました。
なかなかバブリーな事件ではあったけれども、次の日デッカォンは普通に練習に出てました。そのフィジカルの強さを知り、「今後50年、日本はブラジルに勝てないな」なんてワールドクラスというものを意識したのを覚えてます。
ちなみにこの数カ月後、デッカォンはサンダルを万引きしたのがばれてチームをクビに。
ワールドクラスというものについてちょっと考えました。
あいつら元気にしてるかな。
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